完・望んだ働き方と長い旅

私は東京の大学を卒業して、地元で就職した。同級生たちだけでなく、実家の家族にも「都落ち」と言われたような記憶がある。
自分のやりたいことも明確でないまま、氷河期の就職活動に放り込まれた。周囲の友人たちは、まるでゲームのように敵(企業)を分析し、攻略(内定)していった。内定を取れる人材というのは、就職人気ランキングトップ10に入っている3社くらいから内定をもらう。そして、業界2位の企業に内定を得た人に、悪気なく「でも業界2位だよね」と言ったりする。
私は面接に進む以前に、あの独特の牽制合戦に疲れ切って、地元に戻って就職した。

20年ぶりに都心を歩いていると、例えば先週は恵比寿に行ったが、「ああ、ここに来るのは就活以来だ」と思ったりする。どこの会社を受けるために恵比寿に行ったかは覚えていないのに、スーツに汗がしみこんで、制汗スプレーを買うためにコンビニに入った過去の自分は、あの日の太陽と同様、私の記憶に焼き付いてる。

35歳で会社を辞め、4年留学すると決めた時(実際には6年いることになったが)、当時の上司に「お前、戻ってきたら40だぞ。大丈夫か」と言われた。
自分も不安だった。結局41歳で日本に戻って来て、すぐに42歳になり、この年では正社員もないだろうな、でも生活はできるし、ま、いっか、と思っていたら、意外にもまだ正社員になれそうなことにも気づいた。
世の中には行ってみないと分からない世界がたくさんある。

だけど。正社員にと言われても、「いや、いいです」と答えてしまう自分がいる。相手は不思議顔でこっちを見る。
就職活動をしていた学生時代、正社員以外の選択肢なんて考えもしなかった。35歳で会社を辞めるときも、帰国したら正社員、無理なら中国にある企業の正社員、と思っていた。

けれど今、正社員や契約社員、業務委託などさまざまな雇用形態の人が混在する職場に身を置いて、いや、その前からだけど、
正社員が猛烈に安定している(最近は、正社員だってどうなるか分からないと言われているが、それでも企業が人を切り始めても、最初には捨てられない)ことは身に染みて分かる。

もう管理職に近い立場になった私自身が、「あの人は、仕事はあまりできないけど、正社員だからじっくりいくしかないですねえ」と発言してたりする。

一方で、正社員は安定雇用と引き換えに、色々な決定権を担保として会社に差し出しているようにも見える。
住む場所、やる仕事、一緒に働く人。
それは一つの賭けだ。

会社に決定権を委ねて、成長できる仕事、よい仲間が回ってきたら、それは非正規よりいいに決まっている。私だってそうする。しかしそれは時の運、ってことも分かるお年頃になった。
そして自分は、人格が破たんしていたり、指示が支離滅裂な人と働くことを「これも修行」「ここをやり過ごせば」と思える、できた人間ではない。ここがだめでも海外で働けることが分かってしまったので、「ここを辞めるわけにはいかない」と考える人たちとは、だいぶ違う精神構造になってしまった。

子どもが生まれてから、いや、その前からずっと、私は自分がやりたいことを考える余裕がなかった。
面接で「何がやりたいの」と聞かれるのが一番困る。自分は、ずっと家計を背負っていた。そのくせサラリーマンとしておとなしくやれない。
「何がやりたいの」と聞かれたら、「世界の雇用が3分の1になっても、仕事にありつける程度に強くなりたい」と答えたい。壮大すぎて面接では答えられないけど。

その結果、やりたいことより、「やる(できる)人が少なくて、かつスキルがいる仕事」に注力しすぎて、今この時点でも、何がやりたいのかよく分からない。あえて言えば、朝はゆっくり寝ていたい。

冴羽亮やゴルゴ13に私はなりたい。出張料理人でもいいけど。依頼があれば駆け付け、きっちり仕事を果たし、それなりの報酬をもらう。冴羽亮やゴルゴが銃で依頼に応えるように、私も言葉を軸にして、依頼人の課題を(少なくとも見た目は)さっそうと片付け、去っていく後ろ姿を刻み付けたいとか、ぼんやり思っている。





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この記事へのコメント

  • Acky

    はじめまして、フリーランスの翻訳をやってます。

    ママ友がFBのタイムラインでシェアした記事を偶然見かけた
    2年ほど前から、ひっそり読者になりました。

    何度かコメントをしようかと思ったタイミングがありましたが、
    実行に至らず…しかし、今回の記事のまとめを読んで、
    あぁそうそう、わかる!と思わず膝を叩き、コメント実行しました。

    翻訳は、恩返しの鶴のように、身を削って時間と戦いながら
    締め切りを守り…ボロボロになって、の繰り返しで、
    とても身を立てる勇気は持てませんが、細く長く
    時にクレッシェンドしながら付き合えたらいいなと思ってます。



    2017年04月20日 13:00
  • さなぢ

    コメントありがとうございます。
    ってことは、友達の友達なんですね。翻訳はやりたいって人ごまんといますが、きついですよね…。
    私は中国語の翻訳も続けていますが、帰宅して、ごはん食べてさあもう一仕事というのがほんとにしんどいです。でも、やらないと馬鹿になる気がして、恐怖心から続けています。
    2017年04月22日 01:32