⑧中古営業マンには技がある

一軒目に見学した部屋は、一人暮らしの住人が病死し、数日後に発見された物件だった。
家具などが撤去されたばかりということで、部屋には住人の生活がそのまま残っていた。
タバコで変色した壁、台所に大量に貼られたなぞのシール。

いわゆる事故物件だが、私が賃貸に出している地元のマンションにも、相当ご高齢の方が入居しており、複雑な気持ちになる。うちのも事故物件になる可能性があるんだと、初めて思い至る。でも、死ぬ場所なんて自分で決めれるわけでもないし、仕方ない。

中古を何軒か見て回る中で、空き室になってから長かったり、リフォームしていたりで、住人の痕跡が消えている場合は、不思議と売り主のことは気にならないのに、居住中の物件を見ると、部屋より売り主に関心が行く自分に気付く(夫も)。

故郷の熊本県に家を建てたから東京を引き払うという老夫婦の部屋は、築30年超とは思えない美しさだった。こまめにリフォームしており、荷物も少ない。「全部見てください」と開けた押入れ、クローゼット、みなすっきり。買い主側の不動産屋さんが「ここの売り主さんは欲張っていないですし、価格に値ごろ感ありますよ」と言う。
「欲張ってない」。つまり、この不動産バブルで欲張っている人もいっぱいいるってことか。

新築では手が出ない地域の古いマンションの居間には、年配の女性が座っていた。和室には複数の仏壇と遺影。クローゼットからあふれる服。机に並んだ帳簿。そして壁にかけられた色あせた写真。

部屋を出た後、営業の人が教えてくれた。
「彼女は元銀座の方で、景気が悪くなってからは新橋に移って店をやってますが、そこもあまりうまく行ってなくて、若い人を雇うための資金が必要だそうです。僕もお店にいったんですが、たしかにこのままじゃまずい感じでした」

夫が思わず尋ねた。「それで、売り主さんはここを売った後、住む家はあるのでしょうか」
「新橋近くで賃貸に入るみたいです」

中古物件には人の歴史が凝縮されている。

私たちがもう一つ気になったこと。担当エリアを押してくる営業マンたちはどんな場所に住んでいるのか。

大手M社の男性は「千葉のマンションです」
「なぜですか?」「安かったからです。でもエリアには不満です」
リーマンショックでディベロッパーが倒産し、他の不動産が買い取って販売する、いわゆる「アウトレットマンション」の一室を、当初価格より1000万円安く購入したという。

港区の事務所の男性も「千葉」。千葉県内の営業所勤務が長く、千葉にマンションを買ったが、港区に異動となったため、持ち家は賃貸に出し、より便利なところを借り直したという。

昨日会ったリノベ業者の営業マンは「事故物件です」。
「孤独死後、四か月経って発見されたマンションです。これ、自慢になりますが、大森の60平方メートル、築浅を2000万円で買いました。地上に出る前に手を挙げました」

勉強になります。当初の目的を忘れつつあるけど。
続く





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